アメリカ人パイプ作家、ティム・フラーの告白

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・はじめに
 2002年9月某日、わたしはアラスカ州にある自分の家のデッキを作っていた。この日は、珍しく静かで、爽やかな晴天に恵まれた日だった。そのとき、わたしの脳裏に「このデッキで、一日中、パイプを吸って過ごしていたら、きっと楽しいだろうな」という思いが駆けめぐった。
 わたしは少年時代、パイプを吸っていた。当時は若者でもパイプタバコを購入できたのだ。最初は安価なコーンパイプでチェリー・ブレンドを喫煙しており、その後はドクター・グラボウ(Dr. Grabow)のベント型パイプでグリーンセイルを喫煙するようになったが、間もなくパイプの楽しみを忘れてしまっていた。
 運命の2002年9月某日、わたしは午後からインターネットでパイプのホームページを見続けた。翌日は雨で、わたしは一日中、パイプのホームページのリンクをクリックし続け、FAQ(良くある質問)を見たり、タバコのコラムを読んだり、タバコ店やパイプメーカーのホームページを閲覧した。結局、わたしは二つのパイプ自作キットを購入した。このキットには着色剤や各種ワックスが付いていた。
 後日、街へ出ると、ありとあらゆるお店へ行ってパイプとパイプタバコを探したが、どこにも無かった。帰宅して妻にそのことを話すと、彼女はオンラインオークションのeBayを見たらどうかとアドバイスしてくれた。妻は、既に何年も前からeBayオークションの会員になっていて、オンライン決済のPayPal口座にお金の残高があった。さっそく、わたしはいくつかパイプの出品に入札し、またオンラインのタバコ店でパイプタバコを購入した。
 二週間も経たないうちに、わたしはeBayオークションの虜になっており、eBayショップで別のパイプ自作キットを二つ購入した。パイプ制作の工具は、細帯ノコギリ、回転研磨機、そしてドゥレメルというパイプ制作工具(ボウルとシャンクの形を整える)を用いた。
 1ヵ月もすると、いろんなことを覚えたため、高価なパイプがとても欲しくなった。eBayオークションで幾つかのパイプを落札したが、これには一個当たり100ドル以上も掛かった。これでは幾らお金があっても足りない。そう悟ったわたしは、自分でパイプを制作する他は無いんだと決心した。わたしは小型のベンチ・ドリル・プレスと、ほぞを掘る工具、パイプ制作用のドリルの刃、それに研磨器具一式を購入した。こうした機械工具は、手動式の工具よりずっと使いやすかった。また、ボウルとシャンクの素材であるエリカ(すなわちブライア)の塊と、そしてステムを仕入れた。エリカとステムはeBayと素材問屋で手に入った。
 まだパイプを製作する前、わたしはアラスカ州にある家屋を仕上げつつあった。なので、完成させれば、アイダホ州に引っ越すために家を売却することが出来た。なぜアイダホ州かというと、妻が2003年8月にアイダホ法科大学へ入学することが決まっていたからだった。結果的に、2003年の秋から春にかけて、わたしはパイプの制作を保留し、工具や素材をしまっておくことになった。パイプ制作のときに発生した木片や木粉は、パイプ工房として使っていた小さな部屋に堆積し、それは見事なものだと悦に入っていた。本当の事を言うと、パイプの仕上げ作業を食卓の上でしていたので、エリカの木片や木粉は家中に広がっていたのだが……。

・米国アイダホ州にて
 長い物語を手短に語れば、わたしたち夫婦はアイダホ州に大きなガレージ付きの家を買い、そこへ引っ越し、2003年12月にはガレージの中にパイプ工房を設営した。とともに、以前よりも性能の良い工具一式を購入した。
 パイプ制作だけでなく、わたしの人生は、常に木材の中で、というか、材木とともにあった。森林へのハイキング、木造船作り、材木切り出し業、住宅や商店の建築などだった。わたしは美しいウッドを溺愛した。とりわけパイプ素材としてのブライアはゴージャスだという他は無い。木目が美しいと思われるエリカの塊のウッドを選び出し、円盤の切り出し機械でウッドを切り出し、その後に露わになる木目の美しさ。そしてパイプへと仕上げるこの冒険的な楽しさ。ドリルで「ほぞ穴」を掘り、煙道を通し、タバコ・チェンバー(火穴)を掘る。パイプが形になるにつれ、強い期待感は恐れと混じり合っていく。最初に意図したパイプのイメージは、形になりつつある段階で、しばしば欠点を伴い、当然、失望をもたらす。へまは救いがたい。どこかの本で読んだ記憶があるのだが、たぶんプレーベン・ホルム(Preben Holme)の自叙伝だと思う。「わずか3%から5%のブライア・ブロックは完璧で、残りのブライア・ブロックには砂粒や玉石や虫穴が悪さをして節コブになっているので、これをチェックして除去する必要がある」というのだ。

・パイプの美と芸術性について
 パイプは実にシンプルな道具だ。ウッド(木材)、クレイ(土)、ガラス、石などの素材に、2つの穴を貫通させてあるだけ。だが、パイプの基本にあるテーマは永遠だ。パイプの形状は無限に近いバリエーションがあり、素材としてのブライアの美とパイプの美は切っても切れない関係があり、わたしはこのことに畏怖感を覚えるのだ。だらだらと続く手作業の研磨にも関わらず、パイプ制作は楽しくて、わたしは深く満足する。特に木目と色合いとフォルム、その全体が人をして「素敵なパイプですね」と言わせるのだ。言うまでもないことだが、美は、見る人の瞳の中にある。ある人にとっての旨酒は、ある人にとっては毒にもなる。若い男と女の組み合わせのようなものだ。願わくば、わたしのパイプが誰かのハートを射抜きますように。美しい木目、さまざまなパイプのフォルムが、わたしを楽しませる。ドクター・セウスいわく。「楽しいことは楽しい。だが、どのように楽しむかを知るのは、あなた自身だ」。

ティム・フラー(Tim Fuller)

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